日常生活のなかで僕たちはとても多くのものを用いながら過ごしています。
住宅の設計を考えることは、単に家の姿カタチをデザインすることだけではなく、生活を取り巻くこれらの多くの物をどのように取り扱うかを考えることでもあると思います。そのなかで僕が大事にしていることは、「何を見せるか、何を隠すか」について吟味することです。
 物を「隠す」ことを積極的に考えることは、住まいのなかにより一層の楽しさをもたらすきっかけになると僕は考えています。なぜなら「隠す」ことは本来、自分だけが知っているというような秘密めいた楽しさがあると思うからです。たとえば、小屋裏にある小さくほの暗い自分だけの書斎。あるいはキッチンの裏側にある明るい小間。通常は裏方にあたるそれらの場所にいろいろなものがきちんと収納され、出番を待っているような場所。そのような場所では、リビングに置かれると素っ気ない日用品や趣味の物が、実に生き生きとした雰囲気になるように思うのです。お客さんにも見せる表舞台と、住まい手だけが知っている裏方が同時に備わっていることではじめて、豊かな住まいが得られるのだと考えています。

 そのような意味では、住まいのなかのいろいろなプロダクト(照明器具や什器など)も、選び方にいろいろな楽しみ方があっていいのではないでしょうか。「見せる空間」では、家のフォルムとのデザインの調和を図ることが大きな楽しみになるでしょうし、「隠す空間」では一転、気取らず実用的であることが魅力的な雰囲気をもたらすように思います。

 ところで、住宅設計の仕事をしていると、ソファやテーブルなどの置き家具のことで頭を悩ませることが多々あります。 それは家のデザインに合った物を新調する場合ではなく、もともと持っていたものを新しい家にレイアウトする場合です。時にそれらは住まい手にとって、思い入れたっぷりのかけがえのないものであることがあります。そのような時には、僕はそれらを「隠す空間」に追いやってしまうことなく、積極的に「見せる空間」のなかに配置したいと思います。当然、スペースが空いているから、ということだけで置いてしまうと、家のデザインと不釣り合いな浮いた存在になってしまいます。ですから、見た人が「何か思い入れのある大切な家具なんだな」と思えるような雰囲気になるまで、繰り返し設計のスタディを続けます。訪れた人がその家具に出会った瞬間の印象、光の具合、色の調和などをイメージしながら総合的に検討をします。そうすることで、やがて壁の位置や素材などにも変化が現れ、家のデザインそのものが単旋律ではない深みを増していくように思うことがあります。もしかするとそれは、「住まい手の人となり」という本当の意味での「見せる空間」ができあがったということなのかもしれません。