04旅のたのしみ

 僕は仕事柄、建築や街並みの視察旅行によくでかけます。旅をしながら僕がよく観察しているのは、それぞれの街の歴史文化と、地域の建物がどのように関わり合っているか、ということです。その中でも思い出深いのが、スペインのバルセロナで見たアントニ・ガウディの建築のこと。

 写真集の中でガウディの建築を見ていた時には、多彩色で異様な物体というような印象がありました。しかしそれらを初めて実際に見た時は、異様な物体というよりも、ひとつひとつの建物がバルセロナにプレゼントされたオブジェのように感じたのです。地元でよく使われている色とりどりの皿や花瓶、さらにはワインの空きボトルまでもが、いったん砕かれた後、装飾的に建物の表面に貼られています。建物の造形モチーフも、信心深いバルセロナ市民に向けて宗教的含意が繰り返し演出されています。もちろん街並みの風景の中では特異な存在として目に映るのですが、それは個人的な造形趣味の発露というより、バルセロナという街の歴史と文化を、ひとつひとつの建築に体現しているように感じられたのです。21世紀の現在においてもなお、ガウディの建築が一般の人々から支持され、また地元住民から大切にされているのは、そんなところにも理由があるのかもしれません。
 日本でも、かつて江戸の街はとても美しかったと言われています。いぶし銀の瓦屋根が続く家並み。白い漆喰壁と黒ずんだ木部の調和。渋い色合いの簡素な暖簾や格子など。そこには、何が主役というわけでもなく、統一感のとれた美しさがあったのでしょう。ガウディの建築のように個性的な何かがあるわけではなく、街並み全体として見たときにひとつの個性になり得ていたのだと思います。

 江戸時代に比べれば、日本の住宅も随分と多種多様になったはずなのですが、街並みの景観という点では、よく言われているように近年では地域ごとの特色がなくなってきました。これから世に生み出されていく住宅がきちんと地域に根付いていくためには、単に個性的なデザインであることを目的とするのではなく、それがいかに地域環境や歴史文化に向けられたものであるかが、きちんと見えなくてはいけないと僕は思っています。街を歩いているとき、ふと見上げた住宅の佇まいや仕上げ材料が、なにか街の「記憶」に関わっていると感じられると、それはとても素敵で豊かなことだと思います。そのような素適な街は、世界にもたくさんあります。そのような街にできるだけ多く足を運んで肌で感じながら、地域と住宅建築の関わり合いについて考えることが、僕にとって旅の大きな楽しみになっています。例えば、旅先で訪れた地域全体にわたって家の内外に施された装飾や、地域の生活習慣によって育まれた間取り、あるいは街並みの表情をつくる独特な形の窓と、そこからこぼれる魅力的な光、など。これらはいろいろな地域環境や歴史文化の一端であると同時に、創作上のアイデアにもなります。
 一軒の小さな住宅の設計においても、建て主のライフスタイルや土地のもつ雰囲気にあわせて、これらのアイデアをそっと織り込んでいけたら、と思っています。